春一番

「春一番」は文庫版ブラックジャック1巻に掲載されている。
ブラックジャックは金持ちから高い治療費を巻き上げてそれで手術を行っており、高額の治療費が支払えない人間には治療はしない、と思われているようである。しかしこの話では行きつけの居酒屋の娘・千晶を治療し、治療費はその店での一か月の無料飲食権であった。高い治療費を請求するのは患者の誠意や覚悟を図るためで、実際には治療費を受け取らないということも多くある。この話では誠意や覚悟とは関係の薄い話であるが、自分の親しい人間であればそういった治療費も認めているということである。
この物語で千晶には角膜の移植手術を行ったが、手術後に知らない男の姿が目に浮かぶようになったのである。実はこの男の姿は角膜を提供した人間を殺害した殺人犯であり、その男と出会った千晶は殺害されそうになってしまう。もちろん、このようなことは実際にはありえないが、衝撃的なものを見たときにその光景が脳裏に焼き付いてしまうということはよくある。この話は、なにかそれに通じるものを感じるのである。物語の最後にブラックジャックはこのように言っている。「そうがっかりするなよ、これは春一番さ。これからほんとうの春がくるんだ」この一件でつらい思いをした千晶はこれからその経験を土台にして、様々な人との付き合いを経験していくのであろう。
人間は大きな失敗や苦しみを経ないと大きくはなれないとよく言われる。この話ではそれを改めて気づかされるのである。

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